旅と花火

花火の天気具合に左右される一期一会っぷりは、星空と同じくらいではないでしょうか。大きな違いとしては、曇りや多少の雨くらいでは打ち上げられ、ほとんどの場合に於いて問題なく楽しめます。 ただ風向きや強さ次第では、煙でよく見えなかったり、リスクを避けられない場合は中止になることすらあるようです。

*      *      *

梅雨は明けているとはいえ、油断は出来ない。ほんとうにちゃんと晴れて風向きも良く、花火日和になるかどうかは、その時になってみないと分からない。 この花火大会も、屈指の人気度と知名度を誇る大きな花火大会である。たいがい近隣の宿泊施設の予約は相当前まら埋まってしまうらしい。 仕方なく、少し遠くのビジネスホテルに泊まるしかない。それでも残り僅かの部屋数だった。そしてこの立地でこの価格かと一瞬は躊躇うレベルである。通常期ならこの三分の一で泊まれるに違いない。 花火大会は、その規模が大きければ大きいほど、田舎(と言っては怒られるかもしれないが)で行われる事が多いような気がする。 実際、運営上の安全面で「保安距離」を設定し確保しなければならず、大きな花火を上げれば上げるほど、その物理的な距離が大きくなる。 したがって、大きくて派手な花火大会ほど、その保安距離のために広い場所が必要になってくる。だから、必然的に大きな川の中洲とか河川敷とか海辺でやることが多い。 この花火大会も大きな川の河川敷で行われる。街自体はそこそこの大きさだが、川が流れているのは少々郊外なので、特大の花火を上げられるだけの空間的な余裕がある。
しかし、この「少々郊外」とゆうのが割りと厄介である。最寄りの駅から歩くにはけっこう遠いのである。今いるこのホテルから、打ち上げ開催地の駅まで電車で1時間弱かかる。 その駅に着いてから打ち上げ会場の河川敷まで2・30分は歩きそうな感じである。この真夏の最中、あんまり歩きたくはない。 他に手段はないのかと、調べてみると電車と並行して路線バスが出ているじゃあないか。 停留所の場所を辿ってゆくと、ちょうど打ち上げ会場近くの橋の袂にバス停を発見する。なかなか良いルートを見つけたものだと、バスに乗って会場へ向かうことにした。 電車で1時間弱かかる距離なら、バスなら1時間以上かかる訳で、ゆっくりとバスの中から景色を楽しむ。今日は、晴れ。夜になっても晴れの予報、絶好の花火日和である。
だいぶバスに揺られてから会場直近のバス停に着いた。大きな川に架かるこの大きな橋も、あと2時間後には封鎖されるらしい。 橋の欄干から打ち上げ会場の状況が伺えるが、まだそんなに人は来ていない様子である。それでも通りには、すでに屋台がたくさん並んでいる。 入場パスを首から提げ、打ち上げ会場の河川敷に入ると、地図で想像していた以上の広さの河川敷が広がっていた。まだ太陽は高く日暮れにはまだ時間はある。やることも無いので、昼寝でもして待つことにした。
ようやく太陽が遙か地平線の下へ沈み、空が暗くなってきた。雲ひとつ無い快晴の空である。陽が沈んでから約30分後、まだ仄かに青さの残る薄明の空に純白の白菊が3発上がった。花火大会の始まりである。

花火とVR

花火とVR映像表現も、相性が良いように感じます。最近の花火大会には、花火と音楽を合わせて演出するようなスターマインという題目の花火も多くなってきています。 中には全長数百メートルに広がって複数箇所から同時に打ち上げるような花火もあります。そのような場合、花火の見た目の広がりは120度~150度に達することもあります。 この角度となると通常の広角レンズで収めることはできず、超広角と言われる部類のレンズですら見切れる可能性は高いです。 その点、VR方式のレンズ機材を用いると、最大に広がった時でさえ全てを捉えることができるのです。
また、花火自体が「どこを見たいのか」という判断を、比較的ビューワー(観客)ひとりひとりに委ねることができる空間演出であると考えています。 右を見たい人、左を見たい人、上を見たい人、好きなタイミングで好きな方向を選べる自由度が、VRのそれと近似し、仮想的な花火体験をより現実に近い環境へ誘うことが可能になりつつあります。
通常のテレビ向け映像(平面映像)の最大のメリットは、4K8Kと言った高解像度での視聴環境が普及してきたことでしょう。 また、撮影時に多種多様なレンズが使用できる上、HDRなど映像効果により、きわめて精細な花火を見せられるというメリットがありますが、 ビューワー(視聴者)はテレビ画面に向かって注視し続けなければなりません。
一方VRの場合、例え8Kであったとしても360度の映像を記録するため、得られる映像の精細さはテレビ向け平面映像には劣りますが、 楽しみ方の自由度をビューワーに委ねることができます。それがVR映像の最大のメリットです。座って見ても良し、寝転んで仰向けで見ても良し。思い思いの姿勢や場所で楽しむことが出来ます。 さらに3DのVRであれば、空間の奥行き感も演出され、夜空に広がる花火の奥行き感と立体感を体感することができます。
「高精細な平面映像」と「空間体感型の3DのVR」、それら両方を花火の映像体験として皆さまにお楽しみ頂ければ幸いです。