《旅夜の空》

岡山県の山間の小さな町、矢掛町を舞台にした夜空の物語です。矢掛町は自然豊かな田園の広がる静かな所。夜になると満天の星に覆われます。今は、ちょうど田植えもおわり梅雨入り前の穏やかな日が続いています。陽が沈み暗くなると、田んぼの脇の小川には蛍が仄かに舞い始め、星空も春から夏へと移っていきます。
矢掛町を含め瀬戸内海周辺のこの一帯は、空気が澄んでいる上、安定した晴れの日が続くため、絶好の星空観察の地域として知られています。それは、星空愛好家だけではなく、世界的にもトップクラスの天文台が設置されるほどの場所。自然の音に包まれる、夜の星空散策の旅に出掛けましょう!

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初夏の蛍



西国街道の星空散歩

西国街道とは、江戸時代における街道のひとつであり、今で言うところの山陽道である。京都から出発し下関に至る長い道のりである。 その道のりのほぼ真ん中当たりにあるのが、岡山県の矢掛や井原といった宿場町である。とくに矢掛宿は大いに栄えた。 今でも古い当時の町並みが残り、県指定の町並み保存地区となっている。旧矢掛本陣石井家は参勤交代の制定に伴い「本陣」を命ぜられ、重要文化財として現存している。
立派な街道が敷かれていたのだから、星を見て方角を見極めて歩き出すというような事は無かったとは思うのだが、この周辺には星がよく見えることで有名な場所がいくつもある。 たとえば、井原市美星町がそれである。名前からして、星が美しいと表している。地図で見ても、「星」を連想させる名前を付けた施設がたくさんある。 いちばん見晴らしが良い山の上には美星天文台があり、口径101cmの大きな望遠鏡が一般に開放されている。また、星空愛好家もここに集まり、写真を撮ったり望遠鏡を覗いたりしているようだ。
また矢掛町と浅口市に跨がる山の上は、さらに本格的である。国立天文台の188cm望遠鏡や京都大学の3.8m望遠鏡「せいめい」など、天文研究の最前線の施設が並んでいる。
天文関係の施設が多い理由のひとつが、晴天率の高さではないだろうか。年間晴れの日ランキングを見てみると、瀬戸内海周辺の県が上位を占める。(ただその中に岡山県ははいっていない) 県の言い分によると「降水量1mm未満の日数No1」ということらしい。いずれにしても、晴れる確率が高いことには間違いはなさそうだ。
山陽道沿いには大規模な都市が並んでいるために、高度の低い空のエリアは常に明るい。純粋に星だけを見たいと言う人にとっては邪魔な存在かも知れないけれど、 夜景と一緒に楽しみたいという人にとっては、最高のロケーションである。特に、矢掛と浅口に跨がる遙照山からは、倉敷の夜景と瀬戸内海までが見渡すことができ、夜が明けるまで眺めていても飽きることはない。



田園風景



田園風景の向こうの天文台

瀬戸内海の方から県道64号線を北上し長い遙照山トンネルを抜けると、突然に四方を山に囲まれる。そこが矢掛町である。 盆地になっており、田んぼが広がっている。いたるところに荒神を祀る社がある風景は、まさに中国地方ならではである。 田んぼの真ん中に水路ががあり、その延長線上の山の上に国立天文台と京都大学の天体観測ドームが見えている。 ちょうど夕刻になるとその姿がシルエットになって、ハワイのマウナケアを連想させる風景である。 今は5月末。田植えもほぼ終えているが、まだ苗が小さいので水面が鏡のようになり、空の色を反射して綺麗である。 程なくして夜が訪れ、星が輝きだした。

初夏の蛍

星田川の脇に「宇内ホタル公園」とゆう場所がある。文字通り、季節になると蛍が舞っている。さらに、まわりは田んぼしかなく暗いので見上げれば満天の星である。 蛙の鳴き声と蛍の舞いと星の瞬きは、日本人にとって最も心落ち着く組み合わせのひとつではないだろうか。東の空には夏の大三角がすでに見えている。もう季節は夏である。

天文台と天の川

この京都大学の運用する天文台のドームの中には3.8mの望遠鏡が入っており、それは東アジア最大のものらしい。 主に赤外線波長を利用し、系外惑星等の観測を行っているとのこと。 こういう最先端の望遠鏡では、望遠鏡を覗いて記録ということはほとんどなく、電子センサーが受光したデータの画像処理が専らの観測になっているのだろう。 夏の天の川が、ちょうどドームの真上に昇ってきた。天頂付近は、街の夜景による光害の影響も少なく、とても綺麗に星が見えている。

矢掛宿

矢掛宿の街道は、小田川沿いにほぼ東西にまっすぐ延びている。当時の雰囲気を残しつつ、綺麗に整備された道となっている。 街道沿いには、本陣と脇本陣が現存し、いずれも国の重要文化財に指定されている。この本陣と脇本陣がどちらも重文指定されているのは、全国でここ矢掛のみである。 本陣とは、参勤交代の折に大名や旗本など、いわゆる当時の偉い人専用のホテルである。なので、一般人の宿泊は認められてはいなかった。それに次ぐ格式の宿として脇本陣が指定されていた。 矢掛の本陣石井家には、鹿児島県藩主島津家や萩藩主毛利家などが利用していたと記録が残っている。現在は、資料的価値も高い遺産として内部を見学することも出来る。

遙照山

矢掛町と浅口市に跨がる標高405mの山である。天気が良ければ瀬戸内海の向こう側の四国まで見通すこともできるようだ。 山頂付近には展望公園があり夜景のスポットとしても名が知られている。南東の方角には倉敷市が位置し、夜になると水島コンビナートの工場群が煌びやかな光を放っている夜景がよく見える。 天文台があるのは遙照山の隣の山。ここからは天文台を見ることは出来ないが、同様に良好な星空を期待することが出来る。
夜景と星空を同時にいっぺんに楽しみたいのなら、夜に遙照山を訪れるのも良いかも知れない。
東のほうから夜が白んできた。もうすぐ日の出である。